小野幸風

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書道家だった小野道風は、書道をやめようかとスランプに陥り悩んでいた。そんな時、ある雨の日に散歩に出かけた。柳の木のそばに行くと蛙がいた。蛙が柳の葉っぱに飛びつこうと挑戦している姿を見た。しかし、柳(の葉っぱ)は高く、飛んでも届かない。それでも蛙は何度も何度も挑戦するのである。

その時に小野道風が思ったこと・・・

『バカな蛙だ。いくら飛んでも柳に飛びつける訳がない。』

失敗しても失敗しても、何度も何度も挑戦する蛙。バカにはしながらも気になってその様子を道風は見続けた。すると偶然にも強い風が吹き、柳がしなり、蛙は風に乗って見事に柳の葉っぱに飛び移ることが出来たのである。それを見て、道風はハッとした。

『バカは自分のほうだ。蛙は一生懸命努力をして偶然を自分のものとしたのに、自分はそれほどの努力をしていなかったのだ。』と悟ったのである。それから道風は血の滲むような努力をして今では『書道の神』として祀られるくらいになったそうである。

小野道風には幸風という双子の弟がいた。幸風は書の才能は全くなかったが、書道は大好きだった。幸風がある夏の日に書道をしていると二匹のカブト虫が山から飛んで来た。幸風は自然豊かな加曾利の山里で暮らしていた。幸風はカブト虫にスイカをあげた。カブト虫は美味しそうにスイカを食べて、山へ帰って行った。その夜の事である。幸風がひとりで鶏の水炊きを食べているとカブト虫が飛んで来た。よく見ると昼間スイカをあげたカブト虫の一匹だった。カブト虫は昼間のスイカの御礼を言うとまた山へ帰って行った。次の年の夏も同じ二匹のカブト虫が幸風の家にやって来た。幸風はまたスイカをあげた。その夜、御礼に来たのは一匹の同じカブト虫だけだった。

幸風は思った。もう一匹のカブト虫もいつかきっと御礼に来るかもしれない。次の日か?自分が寝ている時に?

それからは幸風は一匹のカブト虫だけが来ても灯りを消さないで待つことにした。村人達は幸風を馬鹿にした。おしまいには幸風の弟子達でさえ馬鹿にし始めた。

“待っても来ないよ!無礼な心は変わらないよ!”

それでも幸風は灯りを付けてカブト虫の来るのを待ち続けた。

馬鹿にする村人達に向かって幸風はぽつんと言った。

『自分だよ!信じるとか信じないではない。ましてや相手ではない。自分の信念だよ!』

夢を与えることが師範の仕事だから。夢を叶えようとする者に力を貸すだけである。単純である。仕事だから!!花が自分の花壇にいる限り、水をやり続けるだけのことである。花を咲かせるかどうかは花自身の問題である。ただし、花が他の花壇に根を伸ばし、他から水を貰っている時は別問題である。

幸風が夜遅くまで灯りを消さずに書道をしていると別のカブト虫が飛んで来た。宮崎から、岡山からも灯りを求めて飛んで来た。加曾利の灯りは遠くは九州まで届いていたのである。空手ライフに大山総裁のCDの話が載った。全国でたったひとりだけ“CDのコピーを頂けないでしょうか?”と電話が来た。嬉しかった。本家本元の自分の道場では響かなかったが、他で響いた(笑)。こんな嬉しいことはなかった。大阪決戦を終え道場に帰って来た夜、灯りを付けていると遠くの山里からカブト虫が飛んで来た。新極真会に移籍して来た時に「押忍色紙」を自分から貰ったらしい。額に入れて床の間に飾っていると。緑代表に誘われて第11回世界大会を見て移籍を決断したと。

“新極真会に来て本当に良かったです!”

大阪は厳しい戦いだっただけに心和む夜となった。秋の大決戦に向けて新たな決意の夜となった。

日本代表選手になれるかどうか?まさにあの道風が見た蛙が柳の木の葉に飛び移るようなものである。並大抵の努力では成し遂げることは出来ない。一人だけの努力だけでは限界もあろう。その道風の蛙の時は偶然にも風が吹いた。その柳の木がしなった瞬間を蛙は逃さなかった。たとえ風が吹いたとしても、その時に蛙が飛んでいなかったら柳の葉に飛び移ることは出来なかった。弛まない努力を続け、最大のチャンスを逃さなかったのである。

世界大会は4年に一度しかない。その日本代表選手になるチャンスなどそうそうあるものではない。厳しい勝負の世界であるから。だが、自分は信じる。あの道風の蛙の時と同じように。弛まぬ努力を続けていれば必ず風が吹くと。そして柳の木がしなり飛び移れるチャンスは必ず来ると。

世界大会に出場したかったら、結果を出せ!

どんなに風が吹いても柳の木がしなろうが、あくまでも飛ぶのは蛙自身であることを忘れてはならない。偶然が重なるチャンスなど滅多にない。そして、もう一つ。勝負の世界には偶然はない。

 自分は道場生にチャンス(機会)を与えることしか出来ない。道場生にチャンスを与えることが師範の仕事だと思っている。柳の木(組織)にはなれないが、風にはなれる。風が吹いているのに気が付かない道場生が多すぎる。いや、気が付いても生かすことができないでいる。

“どうせ変わらないから!”

人の心。人の振る舞いをそう思う人。間違いなく世界大会には出れない。そういう人は、どうせ世界大会なんて出れないから!と思って稽古している。

弟子を裏切る師範と弟子に裏切られる師範。どちらが情けないか?自分は情けなくても灯りをつけて待ち続ける師範でありたい。信じる信じないとかの綺麗事ではない。自分だから。村人達に馬鹿な師範だと言われても夢を叶えてやりたい。壊すことはない。

寝て待てばいいのだから(内緒)。

 道に迷いし時、我 月光とならむ!蛙見つけし時、我 風とならむ!

受けた恩義は2倍で返せ 受けた恨みは3倍で返せ!