幾多の試練を乗り越えて

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9年前の3月11日は富士にいた。第10回世界大会日本代表選手団の強化合宿の初日だった。地震が発生した時は、まさに結団式が始まる直前の選手達が待つ体育館に入るや否やの瞬間だった。体育館の鉄骨が大きく揺れた。人生で初めて経験する揺れだった。世間で起きている大惨事を知らぬまま稽古を続けた。停電の中で懐中電灯で照らしながらの食事を終えた。非常電源で唯一灯りが灯った2階の広間に全員が集まり、そこでテレビニュースを見て初めて大惨事を目の当たりにした。言葉がでなかった。

この試練を乗り越えて、世界大会で日本選手団は初めて男女W優勝を成し遂げた。

この夏、日本でオリンピックが開催される。その直前に世界を襲った新型コロナウイルス感染症の拡大。未だに終息の目途が立っていない。この東京オリンピック開催が決まった時、フルコンタクト空手をオリンピック競技種目にすべく組織を挙げて署名活動を行うこととなった。

「100万人の署名!」を目標に掲げた。空手界がフルコンタクトと伝統派に二分されての署名である。ましてや100万人という途轍もない目標である。当初、本気で達成出来ると思った人は一体何人いただろうか?署名を貰う方の立場である。やり方も何も分からない。全日本大会後の全国支部長会議で正式に「100万人の署名!」が決定した。東京体育館での会議を終え、緑代表からお茶でもどうですかと誘われた。一緒に居合わせた塚本と石原、4人で館内の茶店でコーヒーを飲みながら談話した。その帰り際、緑代表が席を立ちながら最後に残して行ったひと言が忘れられない。

「こういうピンチの時こそ、最大のチャンスなんですよ!」

ピンチの時こそ、チャンス!

緑代表のさりげないひと言ではあったが、何が何でもやるんだぞとの決意を感じた。(失礼だが)緑代表は本気だと思った。塚本と石原と目を合わせ“よし!やるか!”と代表に続けとばかりに暗黙の誓いをした。奇跡が起きた。フルコンタクト空手界が大同団結して見事100万人の署名を達成した。奇跡でもなんでもない。

 勝負は、リーダーの一念で決まる!

第12回世界大会で日本選手団は、第10回以来の男女W優勝を成し遂げた。男子主将の島本雄二は前人未踏の二連覇を達成した。この春から指導者としての道を歩む。2月に東京で道場を開設した矢先での新型コロナウイルス感染症の拡大。そして全国道場の一斉休館。一年で入門者の一番多いこの時期、政治・経済・生活環境等々全ての面で影響を及ぼしている。世界を襲ったこの試練の最中、今週末に開催予定だった日本選手団&U-22強化合宿の中止が決まった時、島本に激励のメールを送った。

「日本選手団も色々試練を乗り越えて大勝利して来たから。・・・・頑張れよ。」

直ぐに返信が来た。

「押忍。ありがとうございます。ピンチはチャンスで頑張ります!奥村師範も体調に気とつけて下さい。5月楽しみにしてます。」

偶然にも、あの署名活動の時の緑代表と同じ言葉が返って来た。いや偶然ではない。世界を制した男の言葉に偶然はない。目の前に大きな試練が立ちはだかった時、どういう姿勢で臨むか!この一点である。

あの日から9年が経った。いまだ避難生活を余儀なくされいる方も多数おられる。何年経っても悲しみが消えることはない。

東日本大震災からの完全復興とコロナウイルス感染症の一日も早い終息をただただ祈るばかりである。